36年前の広島のガイドブックに載っているお店に行く
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ガイドブックというものがある。その地域の美味しいお店だとか、見るべき景色だとかが記された本だ。本屋に行けば、多くのガイドブックが並んでいる。食べ物に特化したガイドブックもあれば、街並みに特化したガイドブックもある。
そんなガイドブックは、今はもちろん、昔だって出版されており、昔のガイドブックに載っているお店が今も営業していれば、それは間違いなく美味しいお店なのではないだろうか。ということで、1985年に出版された広島のガイドブックに載っているお店に行ってみようと思う。
古いガイドブック
毎年新たなガイドブックが出版される。本屋に行けば、最新版のガイドブックが、一つの地域でも有名なところの場合は10冊以上並んでいることもある。皆そのガイドブックを頼りに旅するのだ。
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今回1985年に保育社から出版された「広島味どころ」というガイドブックを手に入れた。多くの場合、人々は最新の情報が載ったガイドブックを必要とするけれど、古いガイドブックに載っているお店が今もあればそれは間違いなく名店。美味しくなければ続かないはずだから。古いガイドブックは美味しさが詰まっているわけだ。
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「広島味どころ」は、元中国放送アナウンサーである柏村武昭さんが書いたもの。柏村さんが行っているお店が載っている。1985年、随分と昔だ。柏村さんで言えば「お笑いマンガ道場」の司会をなさっている時期で、世界で言えばソ連共産党書記長にゴルバチョフが就任し、日本で言えば、これを書いている私が生まれた年だ。
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今回はこのガイドブックに載っているお店に行く。ただ載っている範囲が広いので、広島の流川にあるお店に絞ろうと思う。適当に開いてお店の外観が載っているところに行く。今も営業しているだろか。ドキドキだ。
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日本料理「蔵」
まず開いたページに載っていたのは、日本料理「蔵」というお店。本によれば「生簀に泳ぐ鯛の活造りから、オコゼ、フグ、小鰯、牡蠣、貝など、刺身でよし唐揚げでよし、ありとあらゆる魚介類の料理を楽しめる店」とある。瀬戸内海に面する広島だから魚が美味しいのだ。
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とても簡単というか、なんとなくわかる地図が載っている。住所も書いてあるので、それを頼りに蔵を探す。今の時代だからスマホなどで調べてもいいのだけれど、使わない。当時の人になった気になって、本だけでお店を探すのが醍醐味だ。
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流川は夜の街だから、この時間の街は静かだ。載っているお店も夜だけの営業ということもあるだろから、その場合は、夜にまた来たいと思う。そんなことを思いつつ、蔵を探していると、見つけることができた。1985年から2021年、どのように変わっただろうか。
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おそらくここだと思われる場所は「蔵」ではなく、「さこん」という、鉄板料理のお店になっていた。蔵はすでにないのだ。お店がなくなるのは、もちろん味だけの問題ではなく、後継者の問題や、土地の問題など様々。どんな理由にしろ、蔵はもうない。
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蔵の痕跡はないだろうかと、周りをバキバキに目を開けて探していると見つけることができた。このビルの名前が「蔵」なのだ。お店はなくなっていたけれど、痕跡がある。たぶんだけど。これが昔のガイドブックの魅力の一つ。時空を超えた出会いだ。蔵で食事をしたかったけどね。
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活造り「たか新」
次は「活造りを看板にしているお店は多いが、ここは包丁さばきをショーとして見せてくれる広島で唯一の店」と紹介のある「たか新」というお店。「とうか山(円隆寺)」のすぐ横にあるそうだ。
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場所がわかりやすいというのがいい。私は流川に特別に土地勘があるわけではないので、地図はあるけれど詳しくはないので、このように目標となるものがあるのはいい。お寺だからほぼ間違いなく今もあるはずだ。
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このお寺の横に「たか新」はあるのだ。板前さんたちが包丁の背でまな板を叩き始め、ショーが始まるそうだ。とうか山の前で目を閉じると包丁でまな板を叩く音が聞こえた。鮮明に聞こえる。私の頭に素晴らしき音が響くのだ。
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まな板の音が聞こえるのは幻聴だった。たか新はなくなり、今は「さかな市場」というお店になっていた。「泳ぐイカと魚の店」と書いてあるので、たか新と同じように活造りを楽しめるお店ではあるのだろう。ただたか新ではないのだ。
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痕跡というか、名残のようなものはある。お店の外観は、今も昔をそっくり。入口はそのままと言ってもいい。お店の名前は変わったけれど。そのような発見も昔のガイドブックの魅力だ。
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フランス料理「ワインハウス」
日本料理が続いたけれど、次に開いたページはフランス料理の「ワインハウス」というお店だった。本文を読むと「最近はワインが静かなブームらしい」とある。当時は今ほどワインが一般的ではなかったのかもしれない。
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柏村さんは決してワイン通ではなかったようだ。そう書いてある。私もワインに詳しくない。ただ本文と読み進めると、こちらのお店は堅苦しい感じはなく、気楽に食事を楽しめて、シチューがとにかく美味しいそうだ。シチューは好きだ、ぜひ食べたい。
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このお店では「バンドネオン」の生演奏を聞くことができる。バンドネオンは、この本によれば、見た目はアコーディオンを小さくしたような形で、タンゴに欠かせない楽器だそうだ。目を閉じると、ありありとバンドネオンの音が聞こえる。情熱的なバンドネオンの音。シチューも踊り出す。
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また幻聴だったようだ。お店はなくなっていた。おそらくここだと思うのだけれど、駐車場になっている。バンドネオンの音などするはずがない。なぜなら駐車場になっていて、ワインハウスはないのだから。シチューも踊り出さない。だって、ないんだもん。
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この辺りは駐車場が多い。あとで聞いた話だけれど、バブルの頃に土地の買い占めみたいなことがあった。ビルを建てる予定だったそうだけれど、バブルが弾け結局、ビルは立たず駐車場になった。この場所がそれに該当するかはわからないけれど、ワインハウスは、今はもうないのだ。
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ダイジェストでどうぞ!
この後もいくつかのガイドブックにあるお店を巡ったけれど、なくなっていた。中には移転というのもあったけれど、ガイドブック当時の場所にはないのだ。今回は本に外観が載っているお店を巡っている。外観が載ってないお店は今も営業していることもあった。
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上記のように、料理だけや、内観だけ、というお店もこの本には多い。私は外観が好き。残っていても、なくなっていても、変化がわかりやすいから、外観が好きなのだ。ただそうなると残っているお店は少なかった。
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駐車場になっているお店が多かった気がする。これは流川に限った話ではなく、私は古いガイドブックによる街歩きを趣味にしているだけれど、割とよくある話。もっとも地図がアバウトだし、住所が変わっている時もあるから、おそらくここだろう、くらいしかわからないけど。
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割烹「白鷹」
最後はこの本の最初のお店として載っている「白鷹」に行く。「生ウニとほうれん草のバターいため」がこの店のヒット商品と書いてある。また著者はとにかく「雑炊」が美味いと書いている。雑炊は広島一、いや東京、大阪でもこれほど美味しい雑炊を食べさせてくれる店はないとある。
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ページを開いたときに「これさっき見たぞ」となった。ワインハウスを探しているときに、白鷹の文字を見ていたのだ。これはある、絶対にある、なぜならさっき見たから。改めて地図を見て訪れると、やはりあった。白鷹は今もあるのだ。
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本によれば「通りからちょっと引っ込んでいるのが幸いして、落ち着いた雰囲気を保っている」とある。その通りで通りからちょっと引っ込んだ場所に、白鷹はあった。夜しか営業していないようなので、日が暮れるのを待って、白鷹を訪れた。
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すごい。36年前のガイドブックの通りの外観で営業している。植物までほぼ同じではないか。引き戸を開けて中に入るとまた驚く。本にある内観がそのまま残っているのだ。写真にいる方々はすでに引退したそうだけれど、お店の雰囲気は今も残っている。
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今年で62年目となるこちらのお店。当時は2代目で、現在は3代目となる河口洋平さんが営んでいる。料理も昔のものが多く残り、味も時代の変化で少しずつ変えてはいるけれど、昔とあまり変わらないと言う。ガイドブックの頃がここにはあるのだ。
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開店した頃の白鷹の載ったポストカードをいただいた。変わっていない。「生ウニとほうれん草のバターいため」は広島の名物で今では「ウニホーレン」と呼ばれ他のお店でも食べることができるのだけれど、その発祥が白鷹。もちろん頼んだ。
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生ウニをほうれん草としかもバターで炒めると聞いて、私は「もったいない」と思っていたけれど、申し訳なかった。炒めるべきだ。ウニの旨味が引き出されること、引き出されること。生でウニを食べるより美味しいかもしれない。
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本には「夏に生鰹の味噌づけ」と紹介があるが、季節によって魚を変えて、今ももちろん提供されている。私が訪れた時はマナガツオだった。マンボウのような魚で、瀬戸内海ではポピュラーな魚だ。
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「上品」という言葉が一番合うだろう。美味しさに上品さがあるのだ。ただ決して古臭い美味しいという意味ではない。どの時代も通用する誰もが求める王道の美味しいなのだ。もっと具体的に感想を言えればいいのだけれど、美味しすぎてそれ以上の言葉が出てこない。
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基本的に素材を生かした料理が多い。お造りも新鮮な魚で作る。生臭さというものがまるでない。魚の美味しさだけがあるのだ。刺身が美味しいって最高だよね。
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ワインハウスのシチューを見てから食べたかった「シチュー」を白鷹で食べることができた。和食のお店でシチューというのがおつだ。ワインハウスのシチューとは全く関係ないけれど、美味しかった。深みがすごい。これだけでお店を展開して欲しいほど美味しい。
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「雑炊」だ。本で激推しされていた雑炊。お店の方に聞けば、雑炊が特別売りということではないらしく、著者が冬場に来ることが多く、寒いからよく食べていたのではないか、とのことだった。雑炊というより、リゾットに近いのが特徴だ。
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お出汁と卵の黄身だけを使うので、普通の雑炊とは確かに違う。食べてみると滑らかで、やっぱり味に深みがある。美味しいという表現のお手本のような味だった。雑炊を全てこれにして欲しいほどの美味しさなのだ。著者の柏村さんの舌は間違いない。
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雑炊というより、本来はおにぎりのお店だそうだ。歴代の女将さんが握っている。ふっくらとしたおにぎり。確かに美味しかった。雑炊を食べて締めにおにぎり。炭水化物と炭水化物だけど、別物。幸せすぎる時間だった。
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昔のガイドブックに間違いなし
昔のガイドブックに載っているお店はやっぱり美味しかった。間違いない美味しさ。お店が続く理由がわかる。幸せな時間だった。親に食べさせたくなった。もちろんなくなっているお店もあるけれど、それはそれで面白い。タイムスリップできるのが、昔のガイドブックの魅力なのだ。
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割烹 白鷹
住所:広島県広島市中区流川町1-6
電話:050-5869-1472
定休日:日曜・祝日
参考文献
「カラーブックス 広島味どころ」柏村武昭 保育社 1985
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