萬酒場よごろ

夜通し鳴る音楽とお酒、多彩さを内包するバー

長髪に髭、オシャレなハットやアクセサリーと、どこかエスニックな雰囲気を持つオーナーの木村さん。店内も同じように、鮮やかな翡翠や紅紫の壁色、屋台の提灯、カラフルなだるま、クジラのアート等、「和」でありながら多国籍なテイストも感じられる。夜を表す「よごろ」の名前の通り、一晩中お酒と音楽が楽しめるお店だ。

音楽とお酒を軸に「萬（よろず）」な店づくり

スナックだったスペースを全面改装し、2020年2月に開店した「萬酒場よごろ」。お店ではDJもつとめ、老舗バー仕込みのお酒を提供する木村さんだが、もともとバーを開業しようと考えていたわけではないそうだ。「学生のときにダンスを始めて、20歳ぐらいからショーに出ていました。服もずっと好きだったので大学時代は服屋でバイトしていました」。バイト先の紳士服屋にそのまま就職し、店長をしていた木村さん。飲食に関わったのは、服屋を退職後にメキシコ料理店の知り合いから声をかけられたことがきっかけだった。
開業するお店を服屋ではなくバーにしたのは、「飲食店のほうが色んなことができる」から。「すべて」や「色々」を意味する「萬（よろず）」にふさわしく、お酒の提供はもちろん、音楽イベントの開催、味噌醤油やソースといった商品の販売など、多様性に富んだお店になっている。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

翌4時過ぎまでという営業時間のため、同業者が仕事終わりに来店することも多く、店内は地元の人々で賑わう。しかし、開業時はそういったお店を想定していたわけではなかったという。県外の音楽関係者をイベントで呼び、県外から来た人が広島を知る拠点となるような店。そして、いつも好きな音楽が聴けて、おいしいお酒が楽しめる。そんな店を思い描き、満を持して開店というときに起きたのがコロナの流行だった。

開店から続くコロナ禍で人との繋がりが支え

「店をオープンした直後からどんどん感染が拡大して、開店後はほとんどコロナの思い出しかない」と木村さんが話すように、開店したばかりにも関わらず休業せざるを得ない日々が続いた。こだわってデザインした店内にアクリル板の仕切りを設置したときには、「これなら店を閉めたほうがまし」と感じたという。
そんな中でも店を続けられたのは流川での繋がりがあったから。一見客が付かない間は昔からお世話になっている流川の人たちに支えてもらった。「自分も前は全国チェーンの飲食店でも気にせず入っていましたが、その経験があるから今は知り合いのお店になるべく行こうと思うようになりましたね」と語る。

お店では週に数回、週替わりのフードメニューを提供している。知人の味噌蔵が製造するシーズニングソースを使ったジャークチキンやパスタなど、味も見た目も好評で新規の客も増えているそうだ。コロナ禍の苦労は完全には払しょくされていないものの、新たな客層の獲得に加え、DJイベントの開催やアーティストの招待により県外からも音楽関係者が来店するなど、少しずつイメージしていた店へと近づいている。

流川は「先輩方が作ってきた庭」のような場所

10代から繁華街に通い、イベントなどに参加していた木村さんにとって流川は「先輩方が作ってきた庭」。古くからの顔見知りも多く、同業者の先輩から目をかけられるのは、木村さんが長きにわたり付き合いを大切にしてきたことの表れだろう。
「フード提供はだんだん定着しているのでこれからイベント出店とか、売り込んでいきたい。新しくスペース借りてレコードや雑貨を置くのもいいかもしれないですね」とこれからの展望を語る木村さん。音楽と酒、ファッションを通して、流川のカルチャーを盛り上げていく。