OBAKE. オバケ.

2021年オープン、2022年10月に現在の場所へ移転したゲイミックスバー「OBAKE.」。壁にある人気ゲームのキャラクターや天井から吊り下げられたカラフルな電飾が印象的なお店だ。ゲイミックスバーとはゲイの人たちだけではなく、セクシュアリティを問わずに入れる店のこと。オーナーの榊原たく恵さんは広島のゲイバーでは最年少のママだ。

色々な人が楽しめる閉じないゲイバーに

「お店を開く前は別のゲイバーに20歳から7年間勤めていました」というたく恵さん。ゲイバーで働き出したのは知り合いに誘われたことがきっかけだった。「当時の広島ではミックスバーはなくて、先駆けとして二人で始めたんです」。ちょうどゲイということを自認した時期で、それまで流川にはほとんど来ることもなかったそうだが、面白そうだからと飛び込んだ。
働き始めて意外と接客業が好きだと気付いたたく恵さん。「ゲイバーにはお客さんが面白さを求めている部分もあって、始めた当初は自分に力がないからその期待のハードルを越えるまではちょっと大変でした」と語る。その後、体調を崩したことにより一度ゲイバーを辞めて前職でしていた介護職に就いた。ただ、昼間の仕事だとゲイを隠さないといけないこともあり、生きづらさを感じて、改めて自身の店をオープン。10席ぐらいの小さなスペースで店を始めたが、多くの人が訪れてキャパシティを超えたため、広い店舗へ移転した。

客層はゲイの人よりもストレートの女性客が多く、平日ならば9割近くがストレート。大学生から60代、親子で来る人たちもおり、たく恵さん曰く「ナイトサファリみたい（笑）」。ミックスバーはゲイの人が敬遠することもあるそうだが、それでもミックスバーにしたのはセクシャリティに関係なく、多くの人と繋がる店にしたいという思いから。「以前勤めていたゲイバーがミックスだったというのもあるのですが、ゲイ限定だと人の輪がゲイだけで閉じてしまうんです。自分は対外的なコミュニケーションのあるお店にしたかったですね」。また、ゲイと会ったことがない人に知ってもらう機会を提供するというのもミックスにした理由の一つ。「イメージだけで恐がったりするのも、ゲイをよく知らないから」とたく恵さん。セクシュアリティの垣根を越えて、色々な人が仲良くなれる店を目指している。

ゲイバーだから作り出せる客同士の交流

広島のゲイバーでは珍しく女性スタッフが働いているのも店の特徴だ。ただ、どのスタッフにもたく恵さんが口うるさく言っていることがある。「喋ることはしっかり教育しますね。勉強も兼ねていろんなお店に行くのですが、喋りはうちのスタッフが一番と自信を持って言えます」。さらに気を付けていることは「繋げること」。ゲイバーという店の特性上、来る客は刺激を求める人や好奇心旺盛な人が多いと語る。そのため、スタッフとの会話だけで終わらせるのではなく、横のお客さんと共通点を見つけ、相性が良さそうと判断すれば繋がってもらえるよう工夫しているそうだ。
「私たちが『いい感じだから付き合っちゃえば』って言ってもそこまで強く感じない。オネエがワンクッション入ることで人を繋ぎやすいんですよ」と笑う。偏見を持っていた人がゲイの人と仲良くなったり、ストレートの女の子がレズビアンの子と付き合うことになったり、店で知り合って結婚したというケースも多いそうだ。人と人が繋がるのを見ると「やっててよかった」と感じるという。

流川は「どんな人でも受け入れるまち」

たく恵さんにとって流川は「人と人がつながる場所。どんな人でも受け入れてもらえるまち」。店も「いい意味でゲイバーっぽくないように」と色んな人、特に女性が来やすいことを目指し、オシャレさにもこだわった。ただ、入りやすさを大切にしつつも、ゲイバーだからこそ「誰でも入れる店にはしたくない」とたく恵さん。すべてのお客さんに心地よく楽しい時間を過ごしてほしいからこそ、来た人の態度を見て入口で断ることもあるという。
「オフィス街とかで小さくてもいいのでお店を出してみたいですね。流川ではゲイの立ち飲み屋をやってみたい。店員全員オネエで」とこれからの展望を話すたく恵さん。その温かい人柄がゲイの人だけではなく、セクシャリティを越えて多くの人を惹きつけ、人と人の繋がりを創出している。