日本一の牛の一番高級な部位を3000円台で食べる
焼肉というものがある。カルビ、ハラミ、タンなどを焼いて食べる、多くの人が愛してやまない料理だ。今日の夜は焼肉だ、と知ると1日の活力のようなものが生まれる。楽しみで、楽しみで仕方がない。
焼肉ではいろいろな部位を焼くわけだけれど、一番高い部位はどこだろうか。正解は「エンペラーブリアン」。ヒレの一部なのだけれど、1頭の牛から少ししか取れない貴重な部位だ。しかも、それが日本一の牛だったらどうだろう。素晴らしく美味しいに違いないのだ。
大人の焼肉へ
街を歩けば多くの焼肉屋を目にする。チェーンの焼肉屋もあれば、個人でやっている焼肉屋もある。もちろん自宅でやる焼肉もあるだろう。なんにせよ、肉を焼いて食べるというのは幸せをもたらしてくれる。
私も焼肉が好きだ。もっとも焼肉と一緒にご飯を食べ、肉をとにかく少量にして、ご飯でどれだけお腹を満たすか、という食べ方をしてきた。しかし、もう30代。もっとこう、高い肉を少量いただく、という方向にシフトしていいと思うのだ。
そろそろ食材の美味しさに気づいていい年齢だと思う。肉を食べていたんだか、ご飯を食べていたんだかわからない焼肉からの卒業。最近は食べれば食べるだけ太って来ているので、いい肉少量焼肉が適切なのだ。
いい肉は美味しい
広島市の堀川町にある「炭焼肉処だるま流川店」。1年半ほど前にオープンしたお店だけれど、肉屋としては100年以上の歴史を持つお店だ。店内は落ち着いた雰囲気で、宮崎牛や広島牛などを中心に飛び牛を食べることができる。肉屋では古くからとびっきり上等な牛を「飛び牛」と呼ぶそうだ。
こちらのお店で取扱の多い宮崎牛は、全国和牛能力共進会で、史上初の内閣総理大臣賞を3連覇した実績がある。つまり日本一ということだ。また広島牛は日本の黒毛和牛のルーツの一つと考えられているそうだ。期待しかない。
さらにこちらのお店ではA5のメスしか使わない。A5とは品質評価のこと。メスとオスとでは味が変わるのだろうか?
A5だから必ずいいものとは限らないそうだ。しかし、こちらでは厳選した美味しい肉しか出てこない。
テールを出すお店はあまり多くないと言う。その理由は牛1頭に1本しかないから。またテールには骨があり、スライスするのは包丁では難しい。ただこちらにはスライスできる機械があるので、出せちゃうわけだ。そして、美味しいわけだ。
テールはスープになっているのは、見かけるけれど、焼いて食べたことはなかった。サシが素晴らしい。柔らかく溶けていく。この後も「柔らかく溶けていく」を連発すると思う。だって、そうなんだもん。
広島では「すいびりん」と呼ばれる部位。こちらも1頭から取れる量が少ないこともあり、あまり出すお店はない。全国的には「胸腺」と呼ぶのが一般的だろう。仔牛の胸腺のことを「スイートヴォー」と呼ぶが、それが訛り「すいびりん」になったという説がある。
柔らかく美味しい。モチモチした白子のような感じだ。今までは馬鹿みたいにご飯、白い飯と白米を求めてきたけれど、違うのだ。肉本来の美味しさを楽しむのだ。こちらの肉はそれに値する。
やっぱり私が求める焼肉屋なのだ。わかっている人はここに通うのだ。
登場! 日本一
こちらのお店が出している肉はいいものなのに、相場より安い。肉のレベルに比べて安いのだ。それは100年以上の肉屋というのが大きい。お祖父さんの代から肉屋で、いろいろな付き合いがあり、いい肉を安く手に入れることができるのだ。
エンペラーブリアンである、宮崎牛の。肉界の王である。こちらのお店では3800円。オーラを感じる。
もちろん好みではあるけれど、一番美味しいと言われる部位だ。値段的には一番高い。ヒレならなんでもいいわけではないのだ。その中の一番いいところ。それがエンペラーブリアンなのだ。
ヒレの中で一番いいところなので、当然だけれど、1頭から取れる量は少ない。ヒレの芯に当たる部分だ。
食べると香ばしくて甘い脂。柔らかく溶けていく。ご飯なんていらない。この肉の味だけを楽しみたいのだ。他のものを入れたくないと感じる。焼肉=ご飯だった私の価値観はこのお店では通用しない。だって肉だけでいいんだもん。
みんな食べた方がいいよ、と素直に思う。私にとって3800円は高いけれど、安く感じるのだ。それほどに美味しいのだ。
肉にキレを感じる。口の中が脂で嫌な感じにならないのだ。むしろいい感じになる。私の語彙が足りないのだけれど、つまり総合するとめちゃくちゃ美味しい、ということだ。
サビが続く
私が詩人ならば詩を読むだろうし、画家ならば絵を描くだろう。それほどに美味しかった。飛び牛という意味を心から理解した。とびっきりいいのだ。だって、このお店に入ってから、ずっとサビみたいな状態。幸せだ。
サシが美しいことを「サシの花が咲く」と表現するのだけれど、まさにこのお店の肉がそうだった。見ているだけで、うっとりする。ずっと見ていたい。いや、嘘、食べたい。
口の中で溶けていく脂がたまらない。柔らかく全てが溶けていく。塩村さんは、
と言う。十分に広島一だと思うけれど、まだまだと言っていた。すでに美味しいのに、どんだけ美味しくなるの、って話だ。
焼肉の真の力
人生で初めて、焼肉にご飯はいらないと思ったお店だった。肉の味を楽しみたいのだ。脂だけではなく、肉全体が柔らかく溶けていくのだ。結局この言葉になる、「柔らかく溶けていく」。だってそうなんだもん。美味しくて今もたまに夢に出てくる。いい夢だ。
炭焼肉処 だるま 流川店
住所:広島県広島市中区堀川町1-34
電話:082-208-2340